宝塚船
京大衣笠
 上図は、三重県松阪市の宝塚古墳の船形埴輪、下は京都宇治市の庵寺(あんでら)山古墳の衣笠型埴輪 両者の特徴ある形状には共通点があるという。
 古墳には周囲を取り巻くように円筒埴輪が置かれていることが多いが、その要所要所に衣笠(蓋)型埴輪が据えられていることもある。辰巳和弘氏の指摘だが、宝塚古墳の船形埴輪の船舳の表現と立飾りの形状が似ていることに注目し、これは土器絵画などにある鹿の絵の角の表現ではないかとされた。
舳先形状
 図の左側の船形埴輪の舳先とその右側の三つの衣笠形埴輪の形状は、ほぼそっくりである。古代船「なみはや」のモデルとなった高廻り古墳の船形埴輪といっしょに展示してある1号墓の船も、その形状が似ているのである。
 
船 衣笠
 まるで鹿の角が左右に広がっているかのように見える。蓋埴輪の羽のようなところも、よく見るとまるで埴輪のゴンドラ船を描いたかのような形状である。やはり、鹿の角をモデルに制作したと考えられる。辰巳氏は鹿角の呪力とされているが、鹿の角に霊力を招くような意味合いを考えられたのだろう。
志賀海
 九州の志賀海神社には、大量の鹿の角が奉納されているが、これも角に宿る霊力にあやかろうと願ってのことであろうか。
 
鹿埴輪
 日本の埴輪のみならず大陸にも立派な角を持った牛や鹿がよく描かれている。
 すると高廻り1号や2号などの船形埴輪も、鹿角の形状をモチーフに描いた祭祀用の形状のもので、決して実用の船でなく、喪船や祭祀用であったということであろう。
博物館の説明
 この衣笠形埴輪の説明に、貴人にさしかける日傘、といった解説があるが、この笠の飾りは葬送儀礼と関係するのであり、生存する王に使われたものかどうか疑問であろう。
 そして、埼玉県には衣笠型埴輪とされる角をモチーフにした埴輪が出土している。
衣笠と七支刀
 これをよくみると、七支刀に何やら似ているのである。古代の刀には、北斗七星の図柄が刻まれたものもあって、七支刀も関係があるとの見解も見られるが、これは鹿の角をモチーフにした霊剣と考えたほうがよさそうではないか。二本の角をずらして重ねると、まさに七支刀のモデルとなるのではないだろうか。霊力をもたらす祭祀用の剣となろう。

※古代船「なみはや」のモデルの船形埴輪が喪船であったことについては、こちらをご覧ください。

参考文献
辰巳和弘「他界へ翔る船」新泉社 2011    
掲載図
志賀海神社写真はブログ対馬市福岡事務所レポート
庵寺山古墳衣笠型埴輪は京大総合博物館
生出塚衣笠埴輪は鴻巣市HP