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 スマホでいくつか撮影したが、あとで図録を見て、さすがというか、やはりプロの写真は違うということを痛感した。また、ショーケースに展示された中で、小ぶりの器物は肉眼では細かいところは、よほど視力のいい人でない限り見ることは出来ないと思う。特に金製品の模様などの良さはわかりにくいのではないか。コインの展示のブースでは、すべてに拡大した図版が手前に一緒に並べられているのだが、金製品もこのようなものが必要だったかもしれないが、図録ではその細密な文様を確認できる。また、展示品の色合いなども図録の写真はすぐれている。専門家の解説もあり、ぜひ、展示品を直接見ていただいた後に、図録も見てほしいと思う。けっして主催者側の回し者ではありませんが(笑)
 いくつか、そういった事例を説明します。

 まずは、冒頭写真の図録の表紙の六花形脚付杯だが、小さめのお茶碗ほどの大きさであり、肉眼では、ここまでよく図柄を見ることはできない。この金製品に人物も馬も丁寧に描かれていることに感心するが、内側の底に描かれた魚の様子もよくわかる。さらには、描かれた図の外側がびっしりと魚々子(ななこ)という小さな円文で埋められており、それは脚のところにも施されている。気の遠くなるような作業だ。図録の写真でぜひ確認してほしい芸術品の一つだ。蛇足だが魚々子文様は、漢委奴国王の金印の蛇にも施されています。

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 耳環 北魏5世紀の金とトルコ石の象嵌による耳飾りだが、上のスマホ写真ではよく見れないが、これも図録の拡大写真で、見事な工芸技術を見ることができる。小さな耳環の表面をしかも3列にわたってトルコ石がはめ込まれている様子もわかるが、そのすき間にロウ付けした直径が1ミリにもみたない粒金が並べられているのは驚きだ。
 この粒金の制作とロウ付けの技法は、かなり複雑で高度なものであることを、由水常雄氏は『ローマ文化王国―新羅』で力説されている。細線粒金細工の技法で、まずは鋳造した金の棒を技術的操作をくり返して細くする。その細線を複雑な工程を経て溶融させる。その金属片は、表面張力によって金の細粒となる。ロウ付けの方法は、緑青を擦り下して糊と水を加えてペースト状にしたもので、細線や粒金を接着させる。その加熱処理も複雑。私の説明ではちんぷんかんぷんなので、参考文献の由水氏の解説を末尾に抜粋させていただいたので、ご覧いただきたい。
 とにかく、この金製の小さな装飾品は相当な手間と技術が詰まった一品であることに間違いない。この技術はギリシャにあったものが東伝していったとのことだ。

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 この粒金細工がよくわかるのが、2個の管状飾だ。これも長さ2.7cmと3cmで、ショーケース越しでは、視認しづらい。よく博物館の展示では、拡大ルーペを設置していることがあるが、それが必要なレベル。図録では、この細線と粒金の様子が明瞭である。

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 龍文帯金具 前1~後2世紀 金とトルコ石 いわばバックルだが、金の薄板を打ち出して成形した見事なものだが、これも、スマホ写真ではきれいには見れない(自分の技術不足もあろう)が、図録では鮮明に文様やトルコ石の象嵌も見られる。大龍と小龍が7匹という文様もすごいが、ここに先ほどの細線とこれまた極小の粒金が施されているのには驚嘆するしかない。いい仕事してますねぇ。


 金製品ではないが、図録写真で細部まで美しさを堪能できるものを紹介しておく。

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 原作は7世紀の阿弥陀仏説法図の模写だが、右脇侍(向かって左側)の観音菩薩の拡大図では、よくここまで微細に描いたものだと思うが、装飾文様とその美しさをたっぷり堪能できる。

 この図録はちょっと豪華で値が張るものなので、今更ですがもう少し廉価にしてほしかったとは思う。図録はその見本が館内に置かれているので、見学中に参照されてもいいかもしれない。

◆細線粒金細工の技法 (『ローマ文化王国―新羅』より抜粋
 まず、鋳造した金や銀の棒を、二枚の石板やブロンズ板の間に挟んで、圧力をかけてころがしながら少しずつ細く伸ばしていく。所定の太さになったら、先端部分を細かく作って、瑪瑙やブロンズの塊に穿けた穴の中に差し込んで、ゆっくりと抽き出してゆく。この操作を何回かくり返して、細い金線や銀線を作る。
 粒金の作り方。細い金銀線を、ほぼ直径と同程度の長さに切って、堅炭の粉末の中に並べ、さらにその上から炭の粉末をかける。再び金線片を並べて、その上から炭の粉末をかける。こうした工程を幾層か重ねて、これを加熱し、金線片が熔融するまで熱を上げる。熔融した金線片は、表面張力によって金の粒となる。これを洗浄して、再び石板等の間で研磨処理を加えて、粒金に仕上げる。
 蠟付けの方法。緑青を擦り下して糊と水でペースト状に作り、粒金や細線を、基板の上に接着する。摂氏100度で緑青は酸化銅になり、摂氏600度で糊は炭化する。さらに摂氏850度まで上げると、炭は酸化銅の酵素を奪い取って、純銅の被膜を基板の上に残し、炭酸ガスとなって消失する。そして、そのまま加熱して摂氏890度に達すると、被膜となった銅は、基板の金や細線粒金の金などと反応して合金化する。いわゆる蠟付けの終了。


参考文献
由水常雄『ローマ文化王国―新羅』新潮社2001